貨物利用運送事業の営業所を新設・移転・廃止する手続きは、事業の根幹に関わる重要なプロセスです。とりわけ営業所の所在地は、用途地域や都市計画法の制約を受けるため、市街化調整区域などでは特別な注意が必要となります。本記事では、これらの手続きの種類、必要書類、市街化調整区域での注意点まで実務目線で網羅的に解説します。
なお、本店変更や役員変更を含む変更手続き全体については、「貨物利用運送事業の変更手続き完全ガイド|本店・営業所・役員変更のタイミングと必要書類を専門行政書士が解説」で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
1. 貨物利用運送事業の基本と営業所の位置づけ

貨物利用運送事業とは
貨物利用運送事業とは、自社で車両等の輸送手段を保有せず、他の運送事業者の輸送能力を活用して、荷主と直接運送契約を結ぶ事業です。事業区分は以下の通りです。
- 第1種貨物利用運送事業(登録制):船舶・航空・鉄道・トラックのいずれか単一モードを利用
- 第2種貨物利用運送事業(許可制):幹線輸送(船舶・航空・鉄道)にトラック集配を組み合わせた一貫輸送(ドア・ツー・ドア)
第1種は登録、第2種は許可であり、いずれも国土交通大臣の手続きが必要です。新規参入の要件詳細は貨物利用運送事業の新規許可・登録ガイドをご覧ください。
営業所の役割と要件
営業所は、事業の管理・運営を行う拠点として位置づけられます。営業所には以下の要件があります。
- 事業を行うのに適した広さ・設備
- 使用権原が証明できること(賃貸借契約書または登記事項証明書)
- 都市計画法・建築基準法等の関連法規に適合していること
- 事業用途として使用可能な物件であること
2. 営業所の新設・移転・廃止|手続きの種類
営業所に関する手続きは、変更内容の重要性に応じて「認可」または「届出」のいずれかに区分されます。
| 変更内容 | 手続き | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 営業所の新設 | 事業計画変更の事前認可または届出 | 第8条/第26条 または 第7条/第25条 |
| 営業所の名称変更 | 届出 | 第7条/第25条 |
| 同一管轄内の軽微な移転 | 届出 | 第7条/第25条 |
| 別管轄への移転・規模変更を伴う移転 | 事業計画変更の事前認可 | 第8条/第26条 |
| 営業所の廃止 | 事業計画変更の事前認可または届出 | 第8条/第26条 または 第7条/第25条 |
| 事業全体の休止・廃止 | 事後届出(30日以内) | 第36条 |
判断に迷う場合は、自己判断せず管轄の運輸支局または専門の行政書士に確認することが重要です。認可と届出の違いについては、変更手続き完全ガイドで詳しく整理しています。
3. 営業所の新設手続き
新設の主な要件
営業所を新設する場合、以下の要件を満たす必要があります。
- 物件の使用権原:賃貸借契約書または登記事項証明書(自己所有)
- 用途地域の適合性:事務所として使用可能な用途地域
- 都市計画法・建築基準法への適合:特に市街化調整区域での制約に注意
- 事業計画書との整合性:取扱貨物・輸送区間・実運送事業者との関係
- 欠格事由非該当:申請者・役員に欠格事由がないこと
新設の必要書類
営業所新設の認可申請または届出には、主に以下の書類が必要です。
- 事業計画変更認可申請書または変更届出書
- 変更後の事業計画書
- 営業所の所在地・構造を示す書類(賃貸借契約書、平面図、写真、地図等)
- 用途地域証明書(必要に応じて)
- 履歴事項全部証明書(発行から3ヶ月以内)
- 実運送事業者との委託契約書(営業範囲が拡大する場合)
4. 営業所の移転手続き
移転の規模による手続きの違い
営業所の移転は、規模・距離によって手続きが異なります。
- 同一管轄内の軽微な移転:届出で対応可能(変更後30日以内)
- 別管轄への移転:事業計画変更の事前認可が必要
- 規模を大幅に変更する移転:事業計画変更の事前認可が必要
移転手続きの実務的な注意点
- 移転先物件の用途地域・建築制限の事前確認
- 移転先の所有者・管理会社からの使用許可取得
- 既存の登録通知書・許可書の書換手続き
- 関係取引先(荷主・実運送事業者)への通知
- 登記簿との整合性確保
判断に迷う場合は、移転計画の段階で管轄運輸支局または行政書士に相談することをお勧めします。
5. 市街化調整区域における営業所設置の重大な注意点
市街化調整区域とは
市街化調整区域とは、都市計画法に基づき「市街化を抑制すべき区域」として定められた地域です。無秩序な市街化を防ぎ、農地や緑地を保全することを目的としており、原則として建築行為や土地の形質変更などが厳しく制限されます。
市街化調整区域に営業所を設けるリスク
市街化調整区域に営業所を設置しようとすると、以下のような問題が発生する可能性があります。
- 新築・増改築が原則として認められない
- 既存建物の用途変更が認められない場合がある
- 営業所として認定されず許可・登録申請が却下されるリスク
- 無断で改築・開発を進めた場合、建物の除却命令の対象となる可能性
運輸支局による営業所要件の審査において、「市街化調整区域は原則として営業所として認められない」という運用が一般的です。
市街化調整区域での営業所設置を検討する際の対応
やむを得ず市街化調整区域で営業所を設置する必要がある場合、以下の対応が必須です。
- 用途地域の確認:自治体の都市計画課・建築指導課で物件の用途地域を確認
- 事前相談:自治体の開発指導課に営業所としての利用可否を相談
- 運輸支局への確認:管轄運輸支局に「この場所で営業所として認められるか」を事前確認
- 開発許可・建築許可の検討:必要に応じて都市計画法上の特別な許可手続き
これらを怠ると、許認可の取得が困難になるだけでなく、後から行政指導や除却命令を受ける重大リスクがあります。物件選定の段階から法的適合性を確認することが不可欠です。
6. 営業所の廃止・事業の休止と廃止
営業所のみの廃止
事業全体を継続しながら特定の営業所のみを廃止する場合は、事業計画変更として手続きが必要です。営業所の規模・重要性によって、認可または届出のいずれかとなります。
事業全体の休止・廃止
事業全体を休止または廃止する場合は、貨物利用運送事業法第36条に基づく届出が必要です。
- 休止または廃止の日から30日以内に届出(事後届出)
- 事業再開時も、再開日から30日以内に届出
元記事や巷でよく見られる「1ヶ月前までに事前届出」「再開は15日以内」という記述は誤りです。法令上は事業を休止・廃止・再開した日から30日以内の事後届出が正しい手続きです。
休止と廃止の違い
休止と廃止は名前は似ていますが、性質も再開時の手続きも大きく異なります。
| 項目 | 休止 | 廃止 |
|---|---|---|
| 性質 | 一時的な事業停止 | 事業の完全終了 |
| 許可証・登録証 | 返納不要 | 返納必要 |
| 事業再開 | 再開届のみで可能 | 新規許可・登録を再取得 |
| 適している状況 | 一時的に事業停止したい場合 | 事業を完全に終了する場合 |
将来的に事業再開の可能性がある場合は、廃止ではなく休止を選択するのが賢明です。廃止してしまうと、再開時に改めて登録・許可の取得が必要となります。
長期間休止状態を続けると、実質的に廃業とみなされる可能性もあるため、休止期間中も適切に対応することが重要です。
7. 必要書類リスト(営業所変更時の主な書類)
営業所の新設・移転・廃止に共通して必要となる主な書類は以下の通りです。具体的な書類は変更内容によって異なります。
申請者・法人に関する書類
- 履歴事項全部証明書(発行から3ヶ月以内)
- 定款
- 役員一覧
- 直近の決算書類
営業所に関する書類
- 営業所の賃貸借契約書または登記事項証明書
- 営業所の位置図・平面図
- 営業所の外観・内部写真
- 用途地域証明書(市街化調整区域の場合は特に重要)
事業計画に関する書類
- 事業計画書(変更後)
- 実運送事業者との運送委託契約書
- 運賃料金表
変更内容別の必要書類の詳細は、貨物利用運送事業の変更手続き完全ガイドでご確認ください。
8. 行政書士への依頼の流れとメリット
行政書士に依頼するメリット
営業所の新設・移転・廃止手続きは、専門的な知識を要するため、貨物運送に精通した行政書士に依頼することで以下のメリットがあります。
- 書類作成の正確性向上:補正指示・却下リスクの低減
- 用途地域・建築制限の事前チェック:物件選定段階からのアドバイス
- 市街化調整区域問題のクリア:自治体との事前折衝
- 運輸支局との折衝代行:本業に集中できる
- 時間・労力の大幅な節約
依頼の流れ
- 初回相談(多くの事務所で無料):現状の課題・希望のヒアリング
- 見積もり提示:報酬額・実費・スケジュールの確認
- 正式契約:委任契約の締結
- 書類作成・収集:行政書士が主導で進行
- 運輸支局への申請・届出:行政書士が代行
- 許可・受理の確認:手続き完了
費用の目安
営業所の新設・移転・廃止手続きの行政書士費用は、内容により異なりますが、一般的に以下が目安となります。
- 営業所新設(事業計画変更認可):報酬10〜30万円程度
- 営業所移転(届出):報酬5〜15万円程度
- 営業所廃止・事業休止届:報酬3〜10万円程度
別途、印紙代・登記事項証明書取得費用などの実費がかかります。複数の事務所に見積もりを取って比較検討することをお勧めします。
まとめ:営業所変更は事前準備が成功の鍵
貨物利用運送事業の営業所新設・移転・廃止には、変更の規模に応じて認可と届出の手続きが分かれます。要点は以下の通りです。
- 同一管轄内の軽微な変更は届出、規模変更を伴う変更は認可
- 市街化調整区域では原則として営業所として認められない
- 物件選定の段階から用途地域・建築制限の確認が不可欠
- 事業全体の休止・廃止は30日以内の事後届出(法第36条)
- 将来的に再開の可能性があれば、廃止ではなく休止を選択
営業所の手続きは事業の存続に直結します。判断に迷う場合は、自己判断で進めず、貨物運送専門の行政書士に相談することが、無用なリスクを回避する最善策です。
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